成年後見制度と家族信託はどう違う? 認知症に備える財産管理を豊橋の相続弁護士が解説
認知症への備えとして、「成年後見制度」と「家族信託」という言葉を耳にする機会が増えています。
どちらも、判断能力が低下した場合の財産管理に関係する制度ですが、
「何が違うのかよく分からない」
「実家を売却したい場合はどちらを利用すればよいのか」
といったご相談をいただくことは少なくありません。
前回の記事では、2026年6月に成立した成年後見制度改正の概要について解説しました。
今回は、成年後見制度と家族信託の違い、それぞれの制度がどのような場面に適しているのかについて、実務上のポイントを交えながら解説します。
成年後見制度と家族信託は目的が違う
まず知っておきたいのは、この二つは似ているようで、制度の目的そのものが異なるということです。
成年後見制度は、認知症などによって判断能力が十分でない方の権利や財産を守ることを目的としています。
家庭裁判所が選任した成年後見人などが、本人に代わって契約や財産管理を行い、本人の利益を保護します。
一方、家族信託は、本人の判断能力が十分あるうちに、信頼できる家族へ財産の管理や処分を託す契約です。
将来、認知症などによって判断能力が低下した場合でも、契約で定めた範囲内で受託者となった家族が財産を管理できる点に特徴があります。
このように、
成年後見制度は「判断能力が低下した後に本人を保護する制度」
家族信託は「判断能力があるうちに将来へ備える制度」
という違いがあります。
実家を売却したい場合はどちらを利用する?
ご相談が多いのが、親名義の実家に関する問題です。
例えば、
「親が介護施設へ入所したので、空き家になった実家を売却したい」
というケースでは、どちらの制度が適しているのでしょうか。
成年後見制度を利用する場合には、本人の利益となることが前提となります。
また、本人が居住している、または居住していた建物や敷地を売却する場合には、家庭裁判所の許可が必要です。
一方、家族信託では、契約内容にもよりますが、受託者に不動産の管理・処分権限を与えておくことで、認知症になった後でも契約に従って売却手続きを進められる場合があります。
もっとも、
「家族信託なら自由に売却できる」
というわけではありません。
受託者は、信託契約で定められた目的に従い、受益者である本人の利益のために財産を管理しなければならず、自分の判断だけで自由に財産を処分できる制度ではありません。
契約内容によってできることは大きく異なるため、制度設計は慎重に行う必要があります。
「家族信託の方が便利」というわけではない
近年、家族信託が注目されるようになり、
「成年後見制度より家族信託の方が優れている」
というような説明を目にすることがあります。
しかし、このような理解は正確ではありません。
例えば、
家族間の関係が複雑である場合や、財産管理について第三者による客観的な監督が必要な場合には、成年後見制度の方が適していることがあります。
反対に、
特定の不動産を将来売却する可能性が高く、本人がまだ十分な判断能力を有しているのであれば、家族信託を活用した方が柔軟な財産管理が可能になる場合もあります。
つまり、どちらが優れているかではなく、
「何を目的として準備したいのか」
によって、適切な制度は異なるのです。
成年後見制度と家族信託の主な違いは、次のとおりです。
| 比較項目 | 成年後見制度 | 家族信託 |
|---|---|---|
| 利用を開始できる時期 | 本人の判断能力が低下した後 | 本人の判断能力が十分あるうち |
| 制度の目的 | 本人の権利・財産を保護すること | 将来に備えて財産管理・承継の方法を決めること |
| 家庭裁判所の関与 | あり | 原則なし |
| 財産管理 | ○ | ○(信託契約で定めた範囲) |
| 不動産の管理・売却 | 本人の利益のために行う。居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要 | 信託契約で定めた権限の範囲で行うことができる |
| 身上保護(施設入所契約や介護サービス利用契約などの法律行為の支援) | ○ | × |
| 本人が亡くなった後 | 成年後見は終了する | 信託契約の内容に応じて、財産の承継方法などを定められる場合がある |
任意後見制度との違いにも注意
成年後見制度や家族信託とあわせて、「任意後見制度」という言葉を耳にすることもあるでしょう。
任意後見制度は、将来、認知症などによって判断能力が低下した場合に備え、あらかじめ信頼できる人との間で契約を結んでおく制度です。
もっとも、契約を結んだだけで直ちに効力が生じるわけではありません。
本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて効力が生じます。
また、任意後見人は、契約で定められた範囲内で財産管理や法律行為を行いますが、家族信託のように財産そのものの名義が移転する制度ではありません。
そのため、
- 将来に備えて契約をしておきたい
- 財産管理だけでなく身上保護も重視したい
という場合には任意後見制度が適していることもあります。
一方で、
- 特定の不動産を将来売却したい
- 賃貸物件を継続して管理したい
といったケースでは、家族信託が有効な選択肢となることがあります。
どちらを選ぶべきかは「財産」ではなく「目的」で決まる
成年後見制度と家族信託を比較すると、
「どちらが優れた制度ですか」
というご質問を受けることがあります。
しかし、実際には、そのような優劣で判断できるものではありません。
例えば、
親名義の実家を将来売却して介護費用に充てたいという方もいれば、
預貯金の管理を中心に考えたい方もいます。
また、
障害のあるお子さんの将来を見据えた財産管理を考えているご家庭もあります。
必要となる制度は、それぞれ異なります。
制度選択を誤ると、
「思っていたことができなかった」
「もっと早く相談すればよかった」
という結果になることも少なくありません。
制度の名称だけで選ぶのではなく、
「何を実現したいのか」
という目的から逆算して制度を検討することが大切です。
認知症になってからでは選択肢が限られることも
成年後見制度と家族信託に共通していえるのは、
早めの準備が重要である
という点です。
特に家族信託や任意後見契約は、本人が契約内容を理解し、判断できる能力があることが前提となります。
そのため、認知症が進行して判断能力が失われた後では、利用できない場合があります。
一方、成年後見制度は、判断能力が低下した後に利用する制度ですが、本人の権利を保護するための制度であることから、財産の処分についても一定の制約があります。
いずれの制度にもメリット・デメリットがあるため、
「認知症になってから考えよう」
ではなく、
元気なうちから家族で話し合い、必要に応じて専門家へ相談することが望ましいでしょう。
豊橋・東三河でも相談が増えています
豊橋市や豊川市をはじめとする東三河地域でも、
- 実家が空き家になりそうで心配
- 親の預貯金を将来どう管理すればよいか分からない
- 成年後見制度と家族信託のどちらを選べばよいか迷っている
といったご相談が年々増えています。
高齢化が進む中、財産管理の問題は、相続が始まってからではなく、その前段階から考えることが重要になっています。
ご家庭によって家族構成や財産の内容は異なるため、最適な制度も一律ではありません。
だからこそ、それぞれの制度の特徴を理解した上で、ご自身やご家族に合った方法を選択することが大切です。
まとめ
成年後見制度と家族信託は、いずれも認知症などによる判断能力の低下に備えるための重要な制度ですが、その目的や仕組みは大きく異なります。
成年後見制度は、判断能力が低下した後に本人を保護する制度であり、家族信託は、判断能力が十分あるうちに将来の財産管理について備える制度です。
また、任意後見制度も含め、それぞれ活用場面が異なります。
「どの制度が一番良いか」ではなく、
「自分や家族は何に備えたいのか」
という視点から制度を選ぶことが重要です。
認知症対策や将来の財産管理についてお悩みの方は、制度を利用できる時期を逃さないためにも、早めに弁護士へ相談されることをおすすめします。
※本記事は2026年7月時点の法令および公表資料等に基づいて執筆しています。制度の運用や法令が変更される場合がありますので、具体的な手続については最新の法令等をご確認ください。
この記事は、愛知県豊橋市の弁護士法人柴田・中川法律特許事務所の弁護士が監修しています。
同事務所では、豊橋・東三河地域を中心に、相続・遺産分割・空き家問題・相続放棄・遺言・遺留分・成年後見などの法律相談に対応しています。

